PLASで組織内のAI研修を始めたのですが、最初のテーマを何にするか、悩みましたが、「情報整理」にしました。
多くの人にとって、AIはまだ「チャットで質問するもの」だと思います。メールの下書きをつくる。文章を要約する。アイデアを出してもらう。翻訳してもらう。それだけでも、十分便利です。
でも、組織でAIを活用する可能性は、チャットの中だけにはとどまりません。AIをGoogle WorkspaceやNotion、slackなど、日々の仕事の情報が置かれている場所につなげると、組織に蓄積された知識を探し、整理し、仕事に使える形へ変えることができます。さらには新たな価値を創造することも可能です。
私は、この状態を「組織の脳」のようなものだと考えています。
チャットのAIから、組織の知識につながるAIへ
たとえば、新しく担当になった人が、過去の議事録、事業計画、報告書、関連するメールを一つずつ探し、読み込むには時間がかかります。どの資料が重要なのか、何が最新版なのかも、最初は分かりません。
AIが組織の情報につながっていれば、「この事業のこれまでの経緯を整理して」「過去の会議で決まったことと未完了の課題を出して」「この申請書に使えそうな実績を探して」と頼むことができます。
人が何時間もかけて探していた情報を、短時間で集め、関係を整理し、たたき台にする。過去の知識を、担当者の記憶だけに頼らず、組織全体で使えるようにする。ここまでくると、AIは文章を書く道具というより、組織が持っている知識を仕事につなぐための補助役になります。
特に、限られた人数で多くの業務を担うNPOや小さな組織では、この変化は大きいと思います。人が入れ替わっても過去の知識を引き継ぎやすくなり、担当外の情報も探しやすくなります。これまで別々に置かれていた情報から、思いがけないつながりが見つかることもあります。
ただし、AIをつなげれば自動的に「組織の脳」ができるわけではありません。
整理されていない情報をつないでも、AIは迷う
AIは、組織の事情を最初から知っているわけではありません。何のための資料なのか。誰に向けたものなのか。どのファイルが最新版なのか。現在も有効な方針なのか。こうしたことは、資料の中に分かる形で残っていなければ判断できません。
フォルダに「最終版.docx」「最終版_修正.docx」「最新版.xlsx」が並んでいたら、人でもどれを使うべきか迷います。AIも同じです。古い資料を最新版だと判断すれば、古い前提で答えます。文脈が分からなければ、複数の事業や会議の情報を混ぜる可能性もあります。
AIは、情報が足りなくても、それらしい答えを返します。だからこそ、情報が整理されていない状態でAIに広く探させると、仕事が速くなるどころか、間違った情報をもっともらしくまとめてしまう危険があるのです。
AIが読める状態で、組織の知識を置いておくことが、とても大切なのです。
ファイル名を変えるのは、「組織の脳」に意味を教えること
ここで、ファイル名や会議メモを整える意味が出てきます。
めちゃくちゃ地道ですが、ここは本当に大事。
ファイル名に、何の資料か、いつのものか、どの版か、どの事業に関するものかが書かれていれば、人もAIも内容を判断しやすくなります。
会議メモに、会議の目的、参加者、決まったこと、次に誰が何をするかが残っていれば、後から検索したときに、単なる会話の記録ではなく、仕事の経緯として使えます。
組織の中に資料がたくさんあっても、意味や関係が分からなければ、AIは十分に活用できません。一方で、資料の目的や時期、状態、関連する業務が分かるようになれば、AIは複数の情報を横断し、必要な知識を探し、仕事に使える形へ整理しやすくなります。
小さな整理が、仕事の進み方を大きく変える
最初からすべての資料を完璧に整理する必要はありません。
まず、よく使うファイルの名前を見直す。会議メモに決定事項と次の行動を残す。古い版と現在の版を区別する。似たテーマの資料を同じ場所に置く。組織全体でファイル命名ルールを共有し、みんなで守る。
こうした小さな積み重ねで、AIは情報を探しやすくなり、未来の自分や新しく入ったスタッフも情報を探しやすくなります。そして、AIを組織の情報につないだときに、その効果が一気に大きくなるのです。
AIに「前回と同じような資料をつくって」と頼むだけではなく、過去の資料から共通点を探し、現在の条件に合わせた構成を出してもらう。複数の会議記録から、長く解決していない課題を見つけてもらう。事業報告と広報資料を横断して、外部に伝えるべき成果を整理してもらう。
情報が整っていれば、AIは一つの資料を処理するだけでなく、組織に散らばった知識をつなぎ、次の仕事を進めるための材料をつくれるようになります。
だから、AI研修の最初のテーマを「情報整理」にしました。
より上手なプロンプトを書くことも大切です。でも、その前に、AIが読める組織の知識があるか。必要な資料にたどり着けるか。どれを信頼してよいか分かるか。その土台がなければ、AIの力を組織全体の力に変えることはできません。
最近使ったファイルや会議メモを一つ開いてみてください。別の人が見ても、何の情報で、いつのもので、今も使えるのかが分かるでしょうか。
その小さな見直しが、AIをチャットの便利な道具から、組織の知識を生かす「脳」に近づける第一歩になるのだと思います。
こうしたテーマに関心のある方は、よかったらSubstackを購読していただけたら嬉しいです。


