更地に、最初の穴が掘られた日
更地に、最初の穴が掘られた日
今日、ケニア・ホマベイ郡スバ準区で、PLASが新たに取り組む「チルドレン&ユースセンター」の建設が始まりました。
現地から、写真が届きました。
そこには、建設会社の方々、PLASの現地スタッフ、現地に出張している日本事務局スタッフ、現場監督、そして現地のパートナー団体の代表者たちが写っていました。
みんなで更地に立ち、これから建物が建つ場所を確認していました。
そして、最初の穴を掘っていました。
その更地に掘られた小さな穴を見たとき、胸の奥から深く息が抜けるような感覚がありました。
「ああ、やっとここまで来たんだ」
そう思いました。
現地スタッフからは、こんな連絡も届きました。
「工事はよい雰囲気の中で始まりました。強い意欲と、よいチームワークがあります」
写真とメッセージから、現場の空気が伝わってきました。
うれしさも、もちろんありました。
でも、それ以上に大きかったのは、安堵でした。
ようやく、計画が紙の上を離れ、地域の土の上で動き始めました。
「最近妊娠した一番若い子は、9歳です」
このチルドレン&ユースセンターは、子どもや若者が性と生殖に関する正しい知識を得て、必要な相談につながるための拠点として建設されます。
この事業が本当に必要だと強く感じた出来事があります。
現地スタッフから、ある話を聞いたときでした。
「この地域で最近妊娠した一番若い子は、9歳です」
その言葉を聞いたとき、大きな衝撃を受けました。
9歳。
自分の子どもと同じくらいの年齢です。
その年齢の子が妊娠をして、不安を抱え、身体にも大きな負担を抱えている。
場合によっては、命の危険にもつながります。
その子は、これからどうやって自分の未来を切り開いていくのでしょうか。
保護者の方も、子どものことを思いながら、それでもどうにもできない状況の中で苦しんでいるのだと思います。
この現実を前にしたとき、どうしてもこの地域に、子どもたちが安心して学び、相談できる場所が必要だと感じました。
若年妊娠は、子どもたちの未来を大きく変えてしまいます
ケニアでは、10代の子ども・若者の18%が妊娠・出産を経験しているとされています。
今回の事業地であるホマベイ郡では、10代の妊娠率が33%にのぼります。
これは、ケニア全47郡のうち2番目に高い数値です。
2020年には、妊婦健診で妊娠が判明した15〜19歳の子どもが10,686人、10〜14歳の子どもが1,181人にのぼりました。
健診に来ていない子どもたちを含めると、実際にはさらに多いと考えられます。
若年妊娠は、単に「妊娠した」という出来事では終わりません。
学校を続けられなくなることがあります。
将来の職業選択の幅が狭まることがあります。
安定した収入を得る機会が失われることがあります。
貧困から抜け出すことが難しくなることがあります。
そして、妊娠・出産に伴う健康リスクは、時に命にも関わります。
子どもたち、とりわけ女の子たちを取り巻く状況は、ひとつの原因だけで説明できるものではありません。
正しい知識を得る機会の少なさ。
家庭や地域で性について話しにくい空気。
学校教育だけでは届ききらない現実。
貧困やジェンダーの不平等。
そうしたものが複雑に重なり合い、子どもたちの選択肢を狭めています。
だからこそ、この地域には、子どもや若者が安心して学び、相談できる場所が必要でした。
「NO」と言える力を、子どもたちに届けたい
調査の中で、私が特に心に残っていることがあります。
若い女の子たちの中に、男性から求められたら断ってはいけないと思っている子が少なくなかったことです。
これは、知識の問題だけではありません。
自分の身体は、自分のものです。
嫌なことには、嫌だと言っていい。
「NO」と言っていい。
助けを求めてもいい。
そうした、自分の身体と権利を守るための学びが、十分に届いていないということです。
今回建設するチルドレン&ユースセンターは、単なる建物ではありません。
子どもや若者が、自分の身体を知り、自分の権利を知り、自分の人生を選び取っていくための拠点です。
ここで届けたいのは、知識だけではありません。
自分を守る力です。
困ったときに相談していいと思える安心感です。
そして、自分の未来を自分で選んでいけるという感覚です。
1年間で1,250人に、正しい知識と相談の機会を届けます
この事業では、1年間で子ども・若者と保護者あわせて1,250名に、性と生殖における健康と権利に関する知識を届けます。
目指しているのは、若年妊娠を防ぐことです。
性感染症を防ぐことです。
ジェンダーに基づく暴力を減らすことです。
そして、子どもたち自身が、自分を守る行動を取れるようになることです。
センターには、専門的な研修を受けた現地カウンセラーを配置します。
子どもや若者、保護者からの相談に対応し、必要に応じて医療施設へつなぐ仕組みも整えていきます。
また、10代の子ども・若者自身が啓発リーダーとなる「性教育学生推進員」も育成します。
スバ準区内の6つの中等学校から50名を選出し、6日間の研修を行います。
研修では、HIV、妊娠、性感染症、避妊、性的同意、早期妊娠やジェンダーに基づく暴力のリスク、そして「NO」と言う力について学びます。
講義を聞くだけではありません。
ディスカッションやロールプレイを通じて、子どもたち自身が考え、自分の言葉で伝える力を育てていきます。
同世代から同世代へ。
子どもたち自身が、正しい知識を届ける存在になっていきます。
大人から一方的に教えられるだけでは、届かない言葉があります。
同じ年代の仲間からだからこそ、受け取れる言葉があります。
この事業では、その力を大切にしていきます。
子どもだけでなく、家庭と地域にも届けていきます
子どもたちだけが知識を得ても、家庭や地域の理解がなければ、安心して行動を変えることはできません。
だからこそ、保護者への啓発活動も大切にします。
思春期の子どもとのコミュニケーション。
若者の成長と発達。
性に関する正しい理解。
子どもたちの権利を守るために、大人ができること。
そうした内容を、保護者にも届けていきます。
子どもたちが困ったときに立ち寄れる場所がある。
相談できる大人がいる。
必要なときには医療につながることができる。
学校、家庭、地域、医療施設、行政が連携して子どもたちを支える。
このセンターは、そのための拠点になります。
子どもたちの未来を、子どもだけに背負わせない。
地域全体で支えていく。
それが、この事業で実現したい変化です。
ここまで来るまでに、2年かかりました
この事業は、今日突然始まったものではありません。
ここにたどり着くまでに、約2年間の準備がありました。
現地のパートナー団体との協議。
地域課題の調査と整理。
事業計画の作成。
予算の組み立て。
外務省との調整。
在ケニア日本大使館への相談。
建設会社との確認。
現地との度重なる打ち合わせ。
ひとつずつ積み重ねて、ようやく今日の着工までたどり着きました。
資金面でも、大きな山がありました。
今回は外務省から約2,700万円の資金をいただき、ようやく建設と事業実施に進めることになりました。
ただ、資金が決まるまでの道のりは、決して簡単ではありませんでした。
中でも心に残っているのは、建設会社との最後の詰めです。
何日もかけて、何度もやり取りをしました。
夜中まで、ケニアと電話をつなぎながら、細かな点を確認し続けました。
時には、日本時間の深夜2時まで打ち合わせをしていたこともあります。
時差がある中で、ケニアの建設会社の方と一緒に、どう説明すればよいのか、どこを直せばよいのか、どの数字をどう整理すればよいのかを考え続けました。
計算機を叩き、エクセルを開き、資料を作り直し、翌日には提出する。
毎日学びながら、同時にアウトプットを出し続けるような日々でした。
本当に、何とかかんとか、ここまでたどり着きました。
この事業を担当してくれる新しいスタッフも、日本事務局に入ってくれました。
現地では、新たにプロジェクトのカウンセラーを採用しました。
建設会社とは別に、第三者の立場で工事が着実に進んでいるかを確認してくれる現場監督も配置しました。
現地のNGOや地域の方々も、この事業を支えてくれています。
無償で土地を提供してくださった学校関係者がいます。
地域で建設の進行を見守ってくださる方々がいます。
しかも、地域でのモニタリングをボランティアで担ってくださる方々までいます。
本当に、多くの人の力で、この事業は動き出しました。
新しい事業を立ち上げる難しさもありました
新しい事業を立ち上げるとき、最初から資金や体制が整っているわけではありません。
すでに動いている事業であれば、実績を説明しながら資金を集め、担当者を配置し、運営体制を整えていくことができます。
でも、まだ形になっていない新しい構想には、最初から十分な人員や資金をつけることは簡単ではありません。
だからこそ、最初の構想を形にし、関係者に説明し、資金を集め、実行できる段階まで持っていくところは、どうしても代表として背負わなければならない部分がありました。
外からは見えにくい部分です。
でも、その段階を越えなければ、この事業は始まりませんでした。
一番緊張していたのは、資金が決まる直前でした。
もし資金がつかなければ、ここまで積み上げてきたものがすべて止まってしまうかもしれない。
そんなプレッシャーがありました。
それでも、関係者には「やれる」前提で話を進めなければなりませんでした。
現地にも、日本にも、それぞれの場所で頑張ってくれているスタッフがいました。
すでに多くの人を巻き込んでいました。
だからこそ、「もし全部止まってしまったらどうしよう」という不安は、何度も頭をよぎりました。
今年のお正月休みには、テレビで建設会社のCMを見るだけで、この事業のことを思い出して、呼吸が浅くなるような感覚がありました。
自分でも驚くくらい、この事業のことが頭から離れませんでした。
でも、不安になって立ち止まっていては、何も進みません。
何度も自分に言い聞かせていました。
「できると信じて、やり切る」
完璧でなくても、その時の自分の最高得点を積み重ねる。
今日できる最大を出す。
それを積み重ねることでしか、ここにはたどり着けない。
そう思って、進めてきました。
その積み重ねの先に、今日の着工があります。
受け継がれている思いがあります
この事業には、受け継がれている思いもあります。
このプロジェクトの計画を進めている途中で、交通事故で亡くなってしまった現地スタッフがいました。
そのスタッフにとっても、この事業は強い思いのあるものでした。
資金の目処が立ち、いよいよ実行できる段階に来たとき、あるスタッフから言葉をもらいました。
「亡くなったスタッフの悲願だったこの事業を形にしてくれて、本当にありがとう」
そう伝えられたとき、胸が詰まりました。
私はそのとき、改めて知りました。
この事業は、私たちが日本から計画してきたものというだけではないのだと。
現地のスタッフ一人ひとりの中にも、それぞれの思いがありました。
亡くなった仲間の思いを、どうにか形にしたいという願いがありました。
それを知って、身が引き締まりました。
これは、単に建物を建てる事業ではありません。
誰かが本気で守りたかった子どもたちの未来を、次の人が受け継いでいく事業です。
一人の思いが、別の誰かに渡り、チームに広がり、地域に根づいていく。
今日、更地に最初の穴が掘られたことには、そうした意味もあるのだと思います。
事業が、みんなの手に戻っていく感覚がありました
今日、現地から届いた写真やメッセージを見ながら、ふと思いました。
この事業が、少しずつ自分の手を離れて、みんなの手に戻っていっているのだと。
構想し、計画し、資金を集め、関係者に理解を求め、建設会社と調整し、体制をつくる。
ここまでは、どうしても強く引っ張らなければならない局面がありました。
でも、いよいよ現場で建設が始まりました。
カウンセラーが加わりました。
現場監督が入りました。
地域の人たちが見守っています。
学校関係者も一緒に進行を確認してくれています。
現地のNGOも、地域の方々も、それぞれの場所でこの事業を支えてくれています。
現地スタッフから届いたメッセージを読んだとき、この事業が自分の手から、みんなの手へしっかりと渡っていったのだと感じました。
現地のスタッフが動いてくれている。
建設会社の方々が動いてくれている。
現場監督が見守ってくれている。
パートナー団体が、この事業を自分たちのものとして進めてくれている。
日本事務局のスタッフも、現地に入り、ともに立ち会ってくれている。
そのことを実感した瞬間、これまでの2年間が少し報われたように感じました。
事業が、紙の上の計画ではなく、地域の中で動き始めています。
みんなが、それぞれの場所で「この事業をやるんだ」とゴールを見据えてくれている。
一緒にスタートラインに並んでくれる人たちが、こんなにいる。
それは、本当にありがたいことです。
自分一人で抱えていたものが、少しずつ地域に渡っていく。
そして、地域の人たちの手で、子どもたちの未来を支える事業になっていく。
今日の写真を見ながら、そのことを強く感じました。
ここからが、本当の始まりです
もちろん、今日はゴールではありません。
むしろ、ここからが本当の始まりです。
更地に、最初の穴が掘られました。
ここから、建物が立ち上がっていきます。
そしてその建物が、子どもたちが安心して相談できる場所になっていきます。
性教育学生推進員たちが、自分たちの言葉で同世代に知識を届けられるようにしていきます。
保護者、学校、医療施設、行政、地域のリーダーたちと連携し、子どもたちを支える仕組みをつくっていきます。
やるべきことは、まだたくさんあります。
建設も、啓発活動も、相談体制づくりも、地域との連携も、ひとつひとつ丁寧に進めていく必要があります。
でも今日、私たちは確かにスタートラインに立ちました。
この地域で、望まない妊娠や性感染症、ジェンダーに基づく暴力によって、子どもたちの未来が閉ざされることのないように。
子どもや若者が、自分の身体を知り、自分の権利を知り、自分の人生を選び取っていけるように。
チルドレン&ユースセンターは、そのための拠点になります。
どうか、これからの歩みも見守ってください
この事業をここまで支えてくださったすべての方に、心から感謝しています。
普段からPLASの活動を応援してくださる方がいるからこそ、こうした新しい挑戦を始めることができます。
寄付をしてくださる方。
メールニュースを読んでくださる方。
SNSで活動を見守ってくださる方。
現地の子どもたちに心を寄せてくださる方。
その一つひとつが、事業を前に進める力になっています。
今日、ケニアの更地に、最初の穴が掘られました。
小さな穴です。
でも、そこから始まるものは、とても大きいです。
子どもたちが安心して相談できる場所。
自分の身体と権利を知る場所。
未来をあきらめずに済む場所。
地域の人たちと一緒に、そんな場所をつくっていきます。
PLASはこれからも、このセンターが地域に根づき、子どもたちの未来を支える場所になっていくまで、現地の仲間たちと歩み続けます。
ぜひ、これからの歩みにも関心を寄せていただけたらうれしいです。





読みました〜
素晴らしいです〜
事業開始おめでとう㊗️ございます〜